賞与にかかる社会保険料の計算は?注意すべきことや手続きの流れについて解説

従業員の成績などに応じて支給する賞与にも社会保険料が控除されます。給与では、一定の額で社会保険料が控除されているのを解っている方も多いかと思いますが、賞与はどのように計算されているのか理解してない人も多いかと思います。 賞与の社会保険料を計算する際は、保険の種類によって異なる保険料率を使う ため、正しい方法を知っておくことが大切です。

そこで今回は、賞与にかかる社会保険料の概要や計算方法を確認し、注意すべきことやその後の手続きの流れを紹介します。

あらためて「賞与」とは?


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賞与とは、毎月の給与と別に支給する一時金のことを言います。名称はボーナスや夏期手当、年末手当などさまざまで、支給する企業・時期によって異なります。

賞与の支給額は企業の業績、個々の貢献度によって変動するため、固定された金額が支給されるわけではありません。

賞与に社会保険がかかる理由

賞与に社会保険料がかかる理由は、法律によって規定されているためです。 社会保険料が大幅に引かれるようになった背景には、「事業主側の保険料逃れの防止」が挙げられます。以前は賞与にかかる社会保険料は種類を問わず、すべて1%となっていました。しかし、給与を減らして賞与の支給額を増やし、社会保険料の負担を軽減する事業主が増えたため、2003年に総報酬制が導入されました。その制度導入により、給与と賞与の合計額をベースとした標準報酬月額で、社会保険料を算出する仕組みへと変化したのです。

◇【保険料別】賞与の社会保険料を計算する方法

ここからは、賞与の社会保険料を計算する方法を4つの保険料別に紹介します。

◇ 健康保険料

健康保険料を計算する際は、標準賞与額(※1)に保険料率をかけ合わせたうえで、事業主と従業員が労使折半(半分ずつ負担)するため、2で割ります。※1:賞与額の1000円未満の端数を切った金額のこと、つまり、計算式にすると、以下のようになります。

健康保険料(円)= 標準報酬月額 × 健康保険料率 ÷ 2

なお、事業主が加入している健康保険組合によって、保険料率には違いがあります。例えば、中小企業が多く加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合は、都道府県ごとに保険料率が異なることが特徴です。

以下で、協会けんぽ加入の場合の健康保険料をシミュレーションしてみましょう。

【条件】

・標準賞与額:50万円

・所在地:沖縄県

・受給者の年齢:35歳

【計算例】

 50万円×9.89%÷2=24,725円

※参考:全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」(沖縄県)

◇厚生年金保険料

厚生年金保険料を計算する際は、標準賞与額に保険料率をかけ合わせ、前述した健康保険料と同じく労使折半するため、2で割ります。計算式にすると、以下のとおりです。

厚生年金保険料 = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率 ÷ 2

なお、保険料率は年金制度の改正に基づいて、2004年より徐々に引き上げられていましたが、2017年9月以降は18.300%に固定(※2)されています ※2 厚生年金基金加入者を除く、一般・坑内員・船員の被保険者に適用

以下では、標準賞与額が50万円で、一般の被保険者の場合にかかる厚生年金保険料をシミュレーションしてみましょう。

【計算例】

50万円 × 18.300% ÷ 2 = 4万5750円

※参考:日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和4年度版)」

介護保険料

介護保険は、40歳以上65歳未満の方が被保険者(第2号被保険者)になり、介護保険料は40歳になる月から支払わなければなりません。

以下の計算式のとおり、標準賞与額に保険料率をかけ合わせ、労使折半するため2で割って算出します。

介護保険料 = 標準賞与額 × 介護保険料率 ÷ 2

なお、協会けんぽの介護保険料は、2023年3月分(5月1日納付期限分)以降、1.82%です。

この保険料率を踏まえて、標準賞与額が50万円の場合の介護保険料をシミュレーションすると、以下の介護保険料になります。

50万円×1.82%÷2=4,550円

雇用保険料

雇用保険料の計算では、標準賞与額ではなく賞与額を使い、事業主負担と労働者負担の割合が異なります。計算式にすると、以下のとおりです。(一般の事業の場合)

雇用保険料 = 賞与額 × 雇用保険料率

① 労働者負担分② 事業主負担分① + ② 雇用保険料率
2023年4月1日~
2024年3月31日
0.6%0.95%1.55%

※参考:厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内」

一般事業者で50万円の賞与を与える場合、2023年4月1日~2024年3月31日分の雇用保険料率(事業主負担)でシミュレーションすると、以下の結果となります。

賞与に社会保険料がかからないケースもある!

ここからは、賞与にかかる社会保険料の計算で注意すべきことを紹介します。

退職者の賞与は社会保険料を差し引かないケースがあります。

退職者に賞与を支払うかは就業規則によって定められている「支給日在籍要件」で決まります。「支給日に在籍をしている者に対して賞与を支給する」という内容が規定されている場合は、退職しており在籍していない者に対しては、賞与を支給しなくてもよいことになります。

賞与支給月の末日前に従業員が退職する場合は、健康保険や介護保険、厚生年金保険の控除対象になりません。これは、健康保険や厚生年金保険から抜ける資格喪失月が、賞与支給月に該当する場合は保険料を徴収しないためです。

一方、月末に退職した場合は、翌月1日が資格喪失月あるいは資格喪失日となります。

つまり、資格喪失月に対して賞与支給月が前月となり、社会保険料控除の対象になるため注意しましょう。

従業員が月末日前に退職するケースで、賞与にかかる社会保険料は雇用保険料と労災保険に対してのみです。

◇産前産後休業・育児休業中の従業員は社会保険料が免除される

育児休業中、もしくは産前産後休業中の従業員に賞与を渡す場合、 日本年金機構に届け出ることで、賞与・報酬の健康保険・厚生年金保険料が免除されます。

この免除を適用するには、従業員が休業の旨を事業主へ申し出たうえで、事業主が以下の申出書を日本年金機構へ提出することが必要です。

産前産後休業の場合:産前産後休業取得者申出書を提出

育児休業の場合:育児休業等取得者申出書を提出

産前産後休業や育児休業の取得をサポートする企業は増えつつあるため、スムーズに実現できる体制を整えることが必要でしょう。

年に4回以上の賞与を支給する場合は「標準報酬月額」を用いて計算する

年4回以上支給されるものは賞与とはみなされず、月次給与(報酬)としての取り扱いが必要となります。社会保険料を計算する際は「標準賞与額」ではなく、月々の給与と同じよう「標準報酬月額」を用いて算出する必要があります。

年に4回賞与が支給されたときの判断としては、支給実態が次のいずれかに該当する場合、当該賞与は報酬に該当することとなります。

・賞与の支給が、給与規定、賃金協約等の諸規定によって年間を通じ4回以上の支給につき客観的に定められているとき

・賞与の支給が7月1日前の1年間を通じて4回以上行われているとき

ただし、会社都合でたまたま4回支給があった場合は賞与として取り扱うことになります。

賞与の支給が年4回と年3回では、賞与にかかる社会保険料の計算が異なるため、しっかりと確認しておきましょう。

保険料率は毎年改定される場合がある

厚生年金保険料以外の保険料率は定期的に見直しが行われます。健康保険料と介護保険料

は3月、雇用保険料は4月に改定されるケースが多いです。

また、2022年10月から育児休業における社会保険料免除について免除要件が改正されています。賞与を受け取った月の末日を含む、連続した1ヶ月以上の育児休業を取得した場合に限り社会保険料が免除されることとなりました。

保険料率の改定、法改正をしっかり確認しておきましょう。

賞与にかかる社会保険料を計算したあとの手続き

◇賞与支払届の提出が必要

従業員に賞与を支給した事業主は、賞与支払届の提出が義務付けられています。賞与支払届とは、社会保険料の算出・納付で必要な書類のことで、賞与支給から5日以内 に、管轄の年金事務所もしくは事務センターへ提出しなければなりません。

提出が遅れた場合は、賞与支払届の提出に関する催告状が届きます。催告状が届いたら、すみやかに賞与支払届を提出し、保険料を納付しましょう。

まとめ

賞与の社会保険料を計算する際は、健康保険料や介護保険料など、それぞれの種類に応じた計算式や保険料率を用いらなければなりません。また、従業員が産前産後休業、育児休業中の場合、社会保険料が免除に該当するか、しっかりと確認しておくことが大切です。

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