厚生年金保険料の計算方法を解説!知っておきたい注意点も紹介

企業を立ち上げたばかりの経営者や経験が浅い労務担当者の方は、厚生年金保険料の計算方法に不安を覚えることがないでしょうか。

厚生年金保険料は、給与額・賞与額によって従業員一人ひとり計算する額が異なり、厚生保険料額表に沿って算出を行なうものです。そのため、初めて厚生年金保険料を計算する場合、一からすべて理解するのは難しいかもしれません。

そのような場合は、まず計算方法や計算する際の注意点を押さえておくと、業務に活用しやすくなるでしょう。

本記事では、厚生年金保険料の計算方法や計算時の注意点を解説します。厚生年金保険料の計算方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

厚生年金保険料はどうやって計算される?

まずは、厚生年金保険料の算出方法を確認しましょう。

厚生年金保険料の計算方法

厚生年金保険料は下表のように、毎月の給与を「標準報酬月額」に、賞与を「標準賞与額」に置き換えた額に対し、共通の保険料率18.300%をかけて算出します。

従業員が支払う厚生年金保険料は給与からの天引きになりますが、その際は算出した保険料をそのまま引かないように注意しましょう。算出した厚生年金保険料は、事業者・被保険者が折半する「労使折半」となるため、算出した金額の半分を天引きにします。

<厚生年金保険料の計算式>

保険料の種類保険料の計算方法
毎月の保険料額標準報酬月額×18.300%
賞与の保険料額標準賞与額×18.300%

賞与に対する保険料額を計算する際は、賞与額から1,000円未満の端数を切った額を標準賞与額とします。なお、標準賞与額は、1ヵ月あたり150万円が上限です。

厚生年金保険は32等級に分類され、報酬に応じて等級が変わり、報酬額が高い従業員ほど保険料負担が大きくなるのが特徴です。

上表の保険料率は、年金制度の改正により徐々に引き上げられていましたが、平成29年9月から18.300%に固定されました。

厚生年金保険料の計算例

厚生年金保険料は実際どのように算出するのか、以下の例をもとに計算してみましょう。

<基本情報>

  • 4月~6月の平均給与額:29万8,000円
  • 賞与額:53万2,500円

<毎月の厚生年金保険料の計算方法>

・29万8,000円は、標準報酬月額30万円で計算する
※厚生年金保険料額表の19等級に該当

30万円×18.300%=5万4,900円(保険料総額)
5万4,900円÷2=2万7,450円(本人・企業それぞれの負担額)

<賞与にかかる厚生年金保険料の計算方法>

・1,000円未満は切り捨てとなるため、標準賞与額は53万2,000円で計算する

53万2,000円×18.300%=9万7,356円(保険料総額)
9万7,356円÷2=4万8,678円(本人・企業それぞれの負担額)

なお、厚生年金保険料は労使折半であるものの、被保険者の厚生年金保険料負担分は給与から天引きを行ない、企業負担分と併せて保険料総額を企業が支払う仕組みになっています。

計算に必要な「標準報酬月額」「標準賞与額」とは?

前述したように、厚生年金保険料は従業員の給与・賞与額をもとに、標準報酬月額・標準賞与額に当てはめて計算します。

標準報酬月額や標準賞与額は、どのように基準が決定されるのかを確認していきましょう。

標準報酬月額

標準報酬月額とは厚生年金保険料だけでなく、健康保険料などの社会保険料を算出するために定められた基準額のことです。給与・賞与などの個人の報酬額に応じて、等級があらかじめ区分けされています。

標準報酬月額を決定するための報酬額には、基本給・残業手当・通勤手当・住宅手当などのほかに、事業所提供の社宅や食事券、通勤定期券などの現物給与の額も含まれます。

標準報酬月額は、毎年4~6月の3ヵ月間の報酬から割り出した平均額を基準とし、厚生年金保険料額表に当てはめて決定します。決定した標準報酬月額は、同年9月から翌年8月まで適用される仕組みです。

そのため、基本給が同じ人であっても、算定期間の4~6月に残業が多かった場合や通勤手当額が高い場合などは、わずかな金額の差で等級が変わることがあります。

また、標準報酬月額の等級は、下表のように厚生年金保険と健康保険での等級数や保険料率が異なります。混同しやすいため、注意しましょう。

名称標準報酬月額保険料率
厚生年金保険1等級(8万8,000円)~32等級(65万円)全国一律
健康保険1等級(5万8,000円)~50等級(139万円)自治体・保険者によって変動する

参照:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表

標準賞与額

標準賞与額とは、税引き前の賞与額から1,000円未満の端数を切った金額のことです。賞与の支給1回につき、上限は150万円と定められ、同じ月に2回以上の支給があった場合は合算となります。

標準賞与額は、給料・賃金・賞与といった名称に関係なく、労働の対価として年3回以下で支給される報酬が対象です。

なお、年4回以上の賞与支給がある場合は、標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象となるため、保険料を算出する際は注意しましょう。

厚生年金保険料を計算するうえで知っておきたい5つの注意点

厚生年金保険料は、徴収額に誤りがないよう慎重に計算することが必要です。

ここでは、厚生年金保険料を計算するうえで事前に知っておきたい注意点を5つ紹介します。

収入によって保険料が変動する可能性がある

標準報酬月額は、基本的に4~6月の3ヵ月分の平均給与額を算出して決定されます。ただし、算定期間外で3ヵ月間の平均給与が2等級以上変動した場合は、報酬月額の修正が必要です。これを随時改定と呼びます。

給与額に大幅な変動があった場合は、企業側で速やかに手続きを行なう必要があるため、覚えておきましょう。

毎年7月に標準報酬月額の見直しが必要

実際の報酬と標準報酬月額との差が開かないよう、企業では毎年標準報酬月額の見直しが必要です。前述したように、雇用する全被保険者の4~6月の報酬月額を「算定基礎届」にまとめて提出します。年1回標準報酬月額を見直すことから、これを定時決定と呼びます。

算定基礎届は、毎年7月10日(土日の場合は翌営業日)までに管轄の年金事務所に提出する決まりです。提出が漏れてしまうと、差額請求される場合があるため、必ず期限内に提出しましょう。

厚生年金保険料は日割り計算されない

厚生年金保険料は月単位での徴収となるため、日割り計算はされません。月の途中に入社した場合でも、1ヵ月分の保険料の支払いが必要です。

また、月の途中で退職した従業員がいる場合は、退職月の末日時点で加入していた保険が支払いの対象になります。途中入社や退社する従業員に対して、保険料の徴収漏れがないように仕組みを理解しておきましょう。

徴収額を間違えた場合、清算は翌月以降に対応する

厚生年金保険料の徴収額を間違えてしまった場合は、翌月以降の調整が望ましいでしょう。当月で調整する場合、従業員と直接の金銭のやり取りが必要となり、後々金銭トラブルが発生するリスクがあるためです。

なお、徴収金額のミスがあった場合は、該当の従業員に事実を伝えて謝罪することが大切です。本人が知らないうちに勝手に調整してしまうと、金銭トラブルに発展するリスクが高まるだけでなく、企業への信用問題に発展するケースも少なくありません。

間違えてしまったことを隠さずに、適切な対応をしましょう。

厚生年金保険料が免除される場合がある

産休・育休期間中は給与支払いの対象外であり、厚生年金保険料を含んだ社会保険料は原則免除されます。

また、育休明けの時短勤務などで報酬が大きく下がった場合は「育児休業等終了後の社会保険料の特例」制度が利用可能です。本来の算定期間以外であっても、標準報酬月額の改定が認められます。

これらの制度は、企業を経由して行なうものです。従業員の権利を守るためにも、忘れずに届け出を行ないましょう。

厚生年金保険料はいつまでに支払えば良い?

厚生年金保険料は対象月の翌月末までに、日本年金機構(年金事務所)へ納める必要があります。例えば、5月分の保険料の納付期限は6月末です。

支払う厚生年金保険料額は、日本年金機構より毎月20日前後に送付される「保険料納入告知書」や「保険料納入告知額通知書」によって通知されます。この保険料額は、従業員入社時に企業が事前提出した書類(標準報酬月額や賞与の変動に関する届け出、被保険者の資格取得・喪失など)をもとに算出されています。

支払い方法は以下より選択可能です。

  1. 口座振替
  2. 電子納付(Pay-easy)
  3. 金融機関の窓口

厚生年金保険料は従業員から徴収しているものであるため、企業の責任として期限内に納めなければなりません。支払いが確認できない場合は、延滞金の請求をされることもあるため注意が必要です。

なお、支払い漏れがあった場合は日本年金機構より企業宛てに督促状が届きます。督促状に記載される期間内に納入ができれば延滞金はかからないため、あせらず対応しましょう。

延滞金の利率は、時期や延滞期間によって変わります。延滞金の計算方法は、以下内容を参考にしてください。

<延滞金の計算方法>

○納付期限の翌日から3ヵ月
保険料額×延滞利率(※)×延滞金の発生日数÷365=金額(1)

○納付期限の翌日から4ヵ月以降
保険料額×延滞利率(※)×延滞金の発生日数÷365=金額(2)

金額(1)+金額(2)=延滞金

※令和3年1月1日以降
・延滞利率(~3ヵ月) :「延滞税特例基準割合+1%」
・延滞利率(4ヵ月以降):「延滞税特例基準割合+7.3%」

出典:日本年金機構「延滞金について

厚生年金保険料の滞納によるデメリットは、延滞金の支払いだけではありません。財務状況が厳しい企業だと判断され、金融機関から融資が受けられなくなるリスクもあります。支払い漏れがないよう、慎重に対応しましょう。

まとめ

厚生年金保険料は、決まった計算方法で算出可能ですが、入社・退社時の届け出や定期的な見直しなど、対応すべきことが多くあります。

手続きに不慣れな場合は、不安を覚えることもあるでしょう。企業内で適切な処理が難しい場合は、アウトソーシングサービスの利用も選択肢の一つです。

社会保険労務士法人クローバーでは、労務管理のアウトソーシングサービスを広く展開しています。1,000社を超える業務委託の実績があり、現状をヒアリングしたうえで最適なサービスをご提案します。お気軽にご相談ください。